代々木の長屋

土地への想いが強いことも多い。副都心新宿の住宅街、周りを大きな中層の集合住宅に囲まれた19坪の敷地にこの家は建った。建ぺい率は60%だから、1フロアは11.5坪ほどしかない。それでもクライアントはここに家を建てると決めている。しかも最下階には賃貸用の部屋を併せ持つ長屋の計画だ。しかし広さを望むのは人の常。ヨコに伸びることができない以上、タテに伸ばすしか手はない。床面積に含まれないロフトやバルコニーなどのボリュームを日常の視線の中に取込むように計画するのは常套手段だが、それだけではまだ足りない。そこで、こんなアイデアを思いついた。開けた2つの居室を絞り込んだ通路上の空間で結ぶ。建具は設けないので、片方の居室から、向こうの居室を視界に入れることはできるが、そのすべてが見える訳ではない。空間の端っこを視覚的に判らなくすることで、広さを感じさせるという作戦。それなりに大きな空間であればスッカラカンに壁を無くした方が心地いいけど、この家の場合は、それが逆効果になる。

 

反対側の居室は視界に入るが、向こうの居室のすべてが見える訳ではない。空間の端っこを視覚的に判らなくすることで、広さを感じさせるという作戦。それなりに大きな空間であればスッカラカンに壁を無くした方が心地いいけど、この家の場合は、それが逆効果になる。

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あまり窓が多くない建物のように見えるが、反対側に下階の採光のための、いわゆる「光の井戸」があるので、室内は十分に明るい。おもしろいのは、この建物の入口となる、鉄筋コンクリート打ち放しの部分は、法規のうえでは、地下1階だということ。敷地全体の高低差があるからそうなるのだが、ロフトまで含むと4層あるように見えるこの建物は、地上2階の扱いとなる。3階建てとすることで縛られてしまう法規から解放されることのメリットは大きい。

 

 

 

 

代々木の長屋玄関

最下階であるB1Fは、そのほとんどが賃貸部分であるために、クライアントの居住部分は実質上の2Fから始まる。だから最下階には玄関しかない。すぐ目の前に上階への階段が伸びてゆく。しかし年齢のことを考慮すればエレベーターは必須だ。ただ、エレベーターはプランを作る際に大変にデリケートな条件となる。なぜなら上から下までフロアの同じ位置を串刺しにしてしまうからだ。階層が多いほど、どこに配置するのかを先に決めてしまわないと、後からでは取り返しがつかないことになる。

 

 

 

 

代々木の長屋構造

建物をタテに貫く条件として、もうひとつ光の井戸がある。光の井戸は採光もさることながら、季節毎の日射の取得や遮蔽のことも考慮して配置しないと、心地よい温熱環境を得ることができない。こちらの配置もとても重要だ。かくして、この建物をタテに貫く2つの条件の配置決定がプラン作りの最初の課題となった。これと前述の「端っこ見せない作戦」を絡め合わせた結果、左のような大まかな間取りの原案が出来あがる。

 

代々木の長屋廊下 住人は、エレベーターシャフトの周りに配した階段をぐるぐると巡りながら上下階を行き来する。この導線では、ひとつの角を曲がるたびに、新しい視界が展開していくという効果が生まれた。暗がりから明るいところへ、という明暗のメリハリも、ただ明るいだけの場所よりずっと趣きがある。
代々木の長屋廊下 ぐるぐると巡る導線に各所要室の入口や居室が結びついてゆく。このフロアには、寝室、水廻り、クローゼットがある。廊下は光の井戸からの陽射しを受けて明るい。
代々木の長屋手洗い場 リビング、ダイニング、キッチンがある最上階に昇る途中の踊り場には手洗いコーナーがある。間取りの中で来客者用の水場に適した場所を探した結果、条件を満たしたのがここだった。
代々木の長屋階段 階段を上がりきるとダイニングキッチンに至る。玄関からエレベーターに乗って昇ると、リビングが目の前。
代々木の長屋キッチン エレベーターシャフトと光の井戸に挟まれた通路の先にリビングが見える。「端っこを見せない作戦」のアイデアの原点は、師匠である長谷川順持の教えのひとつ、「閉じてから開け!」。師がイタリアを旅行中に多くの街路と広場の接点が、一度狭くなってから広場に出るということに気づき、会得した技のことで、スライド写真と共に話しをしてくれた。写真中、黒く見える天井の上はロフト。
代々木の長屋扉 反対にリビングの側から眺めてみる。エレベーターシャフトの影にあるハシゴはロフトへと通じている。
代々木の長屋ロフト ロフトは、法規により天井高さが1.4m以下と決められているので、大人は屈まないと歩けない。それでも低い天井には妙に落ち着きを感じるもので、物置ではあるがついつい長居をしてしまいたくなる。夏場、室内の上部に溜まる熱を排出するために設けた小窓からそよ風が入る。じつは、これが気持ちいい。
代々木の長屋吹き抜け 見下ろせばダイニング。出窓はデスクコーナーとしても使える。高い天井のランプの交換を考慮して照明にはペンダントタイプを計画した。何より外せないのがシーリングファン。天井が高い場合はやはりお薦めしたい。たしかに断熱性能がよくなれば上下の温度差は小さくなるが、それでも温度差がある以上、空気を撹拌した方が空調の効きは良くなる。夏場の扇風機効果もあるので、空調の利用を減らす効果も高い。ポイントは夏と冬で逆回転できるものを選ぶこと。
代々木の長屋光 窓枠に積層合板を使ってみた。無垢の木材と違って削らなくてよいので、その分、捨てるものが少なくなるからよいのでは?という発想。
代々木の長屋出窓  

竣工:2009年  延床面積:112.67㎡  混構造(木造(SE構法)+RC)

設計:田村貴彦  施工:株式会社 参創ハウテック

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