高台の家

高台とは、不利な条件なのでしょうか?
なんのなんの。たしかに普請にはより多くの手間が掛かりますが、平らな敷地では逆立ちしても手に入らない、すばらしい眺め
を手に入れることができます。どんなことからでも長所を見いだす癖は、是非とも身につけるべきでしょう。敷地にもそれぞれ
の個性があるのです。喩えるなら、食材の持ち味を活かすかのように、敷地の利点に添わせながら住まい手の暮らしを盛りつけ
れば、シンプルで心地の良い一軒が出来上がるのです。
ようするに、間取りを考えるときには「部屋」よりも「場面」を考えた方がすんなりと纏まるということなのです。どの季節に、
どこで、どんなことをするのか。それを考えるだけで楽しくなるし、そんな暮らしの多彩さは、「部屋」で考えようとしても到
底収めきれるものではありません。少ない手数で多くの「場面」を受けとめることのできるしつらえを用意することこそ、家づ
くりの目指すべき処なのではないでしょうか。
と、言葉にすればこんなことを住まい手である施主と描き手の私は、感覚的に共有していたように思います。だからこそ大切に
したのは、「高い、低い」「明るい、暗い」というシンプルな感覚を如何に織り交ぜるのかということでした。この家が「大人」
な雰囲気を醸しているとすれば、このことが大きな理由に違いありません。 

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2Fにある眺めのいいリビング。窓際の長ベンチに腰をおろし、窓枠に肘を掛けて振り返ると、谷間へと続くいい眺めが広がり
ます。真冬にはポカポカと陽に当たり、初夏には涼やかな風を浴びながらうたた寝をする。「ネコのように何にもしない」そう
いう贅沢をする場所です。

 

 

 

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傾斜地なので、前面道路と敷地の間にも高低差が存在します。
そこに「暮らしの場面」と「空間」を同時に想像しながら、
敷地に立体的な画を描きます。今回は「カーポートの上にデ
ッキの中庭を作りたい」という住まい手の要望がプランをま
とめ上げる突破口となりました。

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竣工後2年が経ち、「カーポートに屋根を」という依頼を受け、
テントを用いるというアイデアで応えました。

 

 

 

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両隣りの建物がこの家よりも高く、午後の陽射しを取り込み
にくいことがシミュレーションで判ったので、この光の吹抜
を設けました。冬は直射日光で明るさと同時に室内を温め、
夏は一度屋根に反射させて程よく振り落とした明かりを取り
込めるよう、庇の長さを計画してあります。
視覚的なことで言えば、天井の低いところ、高いところ、そ
れぞれを織り交ぜた室内にすることで、空間の趣きは一段と
コクを増してゆきます。

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冬の午後の陽射しのシミュレーション

 

 

 

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(左)手前の格子は出迎えの吹抜。
(上)その吹抜から見下ろせば、
そこは1Fの玄関。その格子の手
摺から始まって、長ベンチがリビ
ングへと続いていく。造形的にも
このジグザグとした流れが、なん
かいいのです。

 

 

 

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(左)リビングから見上げる光の吹抜と、(右)光の吹抜を通してくつろぎのロフトから見下ろす2F。
ちょこっと見えているハシゴ階段で「眺めのいいリビング」と「くつろぎのロフト」を行き来します。

 

 

 

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この家のおおまかな空間ボリューム
は、こんな流れでつながっています。
よく見れば、1F階段の下に「ワン
コの坪」と名付けた、将来やってく
るワンコの寝床となる窪みがあるの
です。

 

 

 

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書斎にしつらえられた、くつろぎのコーナー。オットマンに足を載せ、音楽で醸した静けさの中で、ゆるく泳ぐ魚の姿を眺める。
リセットコーナーと名付けたいものです。

 

 

 

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階段の心棒となる赤い壁。この家の中でシンボル的に目立つもののひとつです。1F~ロフトまでを貫き通し、
上下の空間を感覚的に結びつけてくれています。家中のいろんなところから、この赤い壁が視界に入ります。

 

 

 

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風との付き合いも忘れてはなりませ
ん。谷から吹いてきた夏の夜の南風
は、室内に滞留する熱を絡め取りな
がら、家の北側に位置する階段のタ
テ穴を煙突として駆け上がり、ロフ
ト北側の窓から屋外へと抜けてゆき
ます。その様は、まるで暑さを食べ
てくれる生き物のよう。

 

 

 

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土間のある玄関は6畳ほどの広さ。なぜかといえば、ここも歴とした居場所だからです。観音開きの玄関ドアを開放すると、
デッキの中庭とひと続きの場となります。陽の当たるデッキで野菜の手入れをする最中、日影の玄関土間で一服、てな具合。
靴を脱いで通過するだけの場所ではないのです。

 

 

 

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これがデッキの中庭。シンボルツリー
や野菜の苗といった大小のプランター
が並びます。初夏には、手塩に掛けた
ソラマメが実るのが恒例となりました。
休日の午後、苗の手入れを終えたら、
塩蒸しにしたソラマメで一杯。よし。
これでよし。

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使い勝手や暑い寒いを調えることも重要ですが、
見た目から受ける心地良さも備えなければ、家を
造る醍醐味の半分を捨てているようなものです。
色や形はもちろんのこと、しっかりと明暗をつけ
ることも大事な手法のひとつ。暗さの持つシャン
とした落ち着きと、そこから眺める明るい場所と
いうものは、理屈抜きに良いものです。なんでも
かんでも明るいというのは、物足りないお子様の
味。大人の空間はピリッと、ビシっと、苦味走ら
ないと。

 

 

 

という訳で、左下の写真は暗めの玄関から望む明
るいタタミの間。この他にも、玄関には出迎えの
吹抜や階段から光が注いでいます。
トイレの照明は、市販の製品を用いずに、裸電球
を木の板で簡単に囲って明るさを絞り込みました。
ちょっと暗さが効きすぎましたが、そんなことも
また一興。おおらかに受け止めるのが楽しいので
す。

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竣工:2012年      延床面積:104.33m2(木造在来軸組構法)2階て
設計:田村貴彦    施工:株式会社 参創ハウテック
撮影:工藤朋子/田村貴彦

 

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